次世代へと引き継ぐ「美味しい」日本の魚文化
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    のいただきます。

萩大島船団丸長岡 秀洋 さん

萩大島産 甘鯛

飲食店などに直接販売する新しいスタイルや、漁師のまかないから生まれた干物の製造販売で、6次産業化の認定を受け、全国から注目を集める萩大島船団丸。名産ともなっている甘鯛や、出荷のこだわりなど、お話を聞かせていただきました。

萩大島船団丸について教えてください。

現在、全国6か所に展開する船団丸モデルの一例目で、漁獲を主に担なう松原水産には船員が17 名おります。拠点は、山口県萩市の沖合にある人口650人ほどの大島です。漁業が盛んなところですが、後継者不足や漁獲量減で、厳しい状況です。そこで、魚を獲るだけの漁業でしたが、2011年には農林水産省から6 次産業化の認定を受け、現在では、漁獲から販売までを担い、全国の皆様にお魚をお届けしております。

自家出荷ということは、緊急事態宣言が出て、影響が大きかったのではないでしょうか。

はい。2020年春の宣言下では、飲食店の営業自粛によりBtoB 出荷量が約半分ぐらいになりました。9月、10月はBtoC の個人宅配が好調になり、売り上げが戻りましたが、冬に入って第2波でまた3割ぐらい減りました。BtoB はここ最近も注文を取っても時短営業なのでとお断りされることが多いです。サバの養殖も始めていたのですが、ストップしてしまいました。

大島の海域について教えてください。

対馬海流とリマン海流がぶつかる場所で、大島から北西約40km のところに見島があるのですが、その近くに八里ヶ瀬という世界三大漁礁に数えられる場所があり、海のオアシスと呼ばれる好漁場でした。今は海外の漁船の乱獲や環境の変化などにより、漁獲量が減ってしまいました。また、水温の上昇などで生息地が変わり、「旬」の魚の時期がずれ、漁獲時期や揚がる魚の種類にも変化があります。
水揚げ減少や、地域の食文化に適さない漁獲により、市場での単価が下がり、漁師の収入も減り、若い後継者が大島から出ていってしまう。今は船員17人のうち8人がIターン依存というのが現状です。ですから、従来のやり方ではなく、新しいスタイルの漁業を構築し、従来の販路に依存せず、適切な販路開拓をしていかないといけないと思います。

新しいスタイルとはどのような内容ですか。

出漁が決まると、LINE アプリで出漁の連絡をさせていただき、ご注文をお受けし、お客様やお店のメニューなどお好みに合わせてお魚を詰め合わせ、船上でも魚種ごとに適切な温度管理を行なって発送させていただきます。水揚げしてから、何時間、どれくらいの温度帯で熟成が進んでいて、どんな調理法に向くのか、生産者と消費者がつながるからこそ全行程の管理が叶います。また、食べるお客様に1 匹のお魚の命に対するストーリーをお届けすることがでます。このスタイルをますます構築していきたいです。

1 匹ずつ丁寧に扱われた甘鯛はとても美しい。8月の禁漁を除き、1年中安定的に出荷できるのも強み。

甘鯛はどんな方法で獲られていますか。

見島の周辺で、延縄漁をしています。山口県は甘鯛の漁獲量が全国有数で、太平洋側と獲れるものと身質が違います。

出荷で気をつけていることはありますか。

まずは素手で魚を触ると身焼けてしまうので、専用の分厚い手袋をはめて作業をします。釣ったら氷の入ったクーラーに入れ、その後、氷水でシメます。そして箱詰めする時はパーチをするなど、1匹ずつ丁寧に扱っています。また、使うビニールや、資材もたくさんの中からテストをし、最適なものを選んで季節ごとに管理をしています。鮮魚のお手当は日にちが経つほどその差が出てくるといいます。

山口県の北部、萩市の沖合8km に浮かぶ大島。豊かな漁場に恵まれ、県内でも有数の漁獲量を誇る。

最後に、これからの展望を教えてください。

魚は少なくなっていますけど、いないわけではない。若者が漁業で食べていけるようにしていきたいと思います。50年、100 年、大島や日本の美しい魚食文化を守っていきたいですね。

生産者×シェフ SPECIAL INTERVIEW