てのしま林 亮平 さん
カンパチオイル焼き
水産資源が枯渇していくなかで養殖は重要な一つの選択肢。普段は天然物を使いながらも、そう語る林さんは、養殖魚の可能性を探り、できることを考えながら使っていかなくてはといいます。水産資源に対する熱い思いをおうかがいしました。
影響はもちろんありました。2020年4月の緊急事態宣言では多くの飲食店が営業自粛をしていたし、僕らも休業をしていましたね。ただ、今はフェーズが変わってきて、お客様も飲食店側もなんとなく状況が分かってきている状態。2021年1月の緊急事態宣言下では営業時間を短縮しつつ、店を開けています。イートインだけでなく、炊き込みご飯やおかずのテイクアウトもはじめました。来てくださる方はほとんど常連のお客様なので、自然と会員制のレストランみたいになってきていています。
ねじめ黄金カンパチは、これまで僕が取り扱っていた養殖とはちょっと違う印象がありました。養殖の多くは脂をしっかりと乗せているイメージがありますが、このカンパチは、どちらかといえば淡泊。これをどう美味しく食べるか考えた時、日本料理ではあまりないんですが、オイル焼きにしてみようと思いました。
山椒とニンニクの香りをつけた油で焼いて香りをまとわせ、発酵させた自家製の塩かぼすを添えて、風味豊かに仕上げています。「素材を活かす」って、生で提供することだけじゃないと思うんですよ。素材にもいろんな面があるからこそ、それに応じて調理法も工夫する必要がある。僕は今回、風味を「加える」ことで、カンパチを楽しんでもらえたらと考えました。
山椒とニンニクの香りのオイルをまとわせて、しっとりと火入れをしたカンパチのオイル焼き。
僕らは実際現場に行って、生産者さんに会うようにしています。生産地に赴いて、誰がどういう形でつくっているのかを知るだけでも全然違うし、そこで得た知識や経験が、お客様にもきちんと伝わっていくと思います。ただ、見学するだけじゃなくて、特に魚については、料理人も一緒に未来の話をしないといけないなと感じています。僕ら料理人と漁業関係者の皆さんはもっと近くなるべきではないかなと考えています。僕は普段天然物を使っていますが、絶対養殖はやるべきだと思っています。
水産資源が減っているなかで、養殖は重要な一つの選択肢。そう考えた時、今生産されている養殖魚について何が良くて何が悪いのか、どうしていくべきなのかを皆で議論すべきではないでしょうか。例えば、えさの話や魚の味に関しての話は、もっともっとブラッシュアップできるところがあるのではないかなと感じています。僕らも養殖業者さんを訪ねることもありますけど、その時は、えさの話を聞いたり、自分からも話したりしています。大量につくれて安く売れるものだけじゃなくて、安全で美味しいものであることも大事ですよね。
日本は、世界でも屈指の魚の扱いが素晴らしい国です。日本料理は魚なしではありえない。でも同時に、魚が資源として枯渇しつつあるということを僕らも気がついているので、ただ、何も考えずに使い続けるのではなく、養殖魚の可能性を探り、できることを考えながら使っていかなくてはいけないと思います。
僕らは、生産者さんとより距離を短くしたいと考えています。僕は料理人のことを、生産者さんとお客様をつなぐ、バトンリレーの走者だと思っているんです。きっと、その走る距離が近ければ近いほど、お客様の満足度も上がるし、生産者さんのやりがいにもつながるはず。少しずつ実現していけたら嬉しいです。
「菊乃井」に17年在籍。2011年から本店の副料理長、2015年からは渉外料理長を務め、以降30 ヶ国以上で和食普及のためのイベントに携わる。2018年3月、東京・青山に「てのしま」開店。